ちょっとあぶないエクスプロラトリアム

サンフランシスコには人気博物館「エクスプロラトリアム」(the Exploratorium)があります。

エクスプロラトリアムは科学博物館ですが、展示は見るだけではなく体験型のものがほとんどです。展示物にはアーティストの作品も数多くあります。サイエンスとアートの融合に関心のある方におすすめします。

エクスプロラトリアムは2013年4月にピア15に移転し、ミュニメトロ(トラム)のFラインで簡単にアクセスできるようになりました。展示空間は広大で、すみずみまで体験したら1日では回りきれないほどです。

pier15

エクスプロラトリアムの運営方針には感心させられます。展示はこども向けにデザインされていますが、つかいかたによっては刺激が強すぎたりケガをしそうものなど危険を感じるものも少なくありません。しかしそうした展示物を監視する大人スタッフはまったくいません。

また、展示空間にはいくつかデモンストレーションのカウンターがあります。わたしが訪れた日は、高校生くらいの年齢のボランティアスタッフが、牛の目玉を解剖して構造を説明していました。このデモ、こどもにとって衝撃が強いかもしれません。だからといって特に注意書きや警告などはありません。

これが日本の博物館だったら、おそらく監視スタッフを常駐させたり、注意書きや警告文を掲示したり、はたまた同意書をとられるかもしれませんね。万一の事故の可能性に備えて、できるだけ安全側に設計しなおすところでしょう。

でもエクスプロラトリアムは、そんなことしなくても何の事故も起きず「うまく回っている」ようにみえました。もちろん、危険そうに見える展示物も最終的な安全性はしっかり保たれて設計されているのだとおもいます。それだけでなく、まわりの来場者の親や大人たちが、こどもたちを見守っていることも大きいとおもいます。

これは危険性をどのように扱うかについての文化の違いなのかもしれません。危険性を限りなくゼロにしようとして運営のコストを引き上げるのか、来場者自身の責任で危険性をコントロールしようとするのか。そういえば、グランドキャニオンの崖に手すりはついていないと言っていた政治家がいましたっけ。

ともかくエクスプロラトリアムはおすすめです。週末は家族連れでとても混雑しますので、平日の訪問をおすすめします。レストランも併設されていますので、じっくりお楽しみください。

Exploratorium

西海岸でZineを買う。 The Needles & Pens story

WWDC 2013の合間をぬって、サンフランシスコのミッション地区(Mission District)にあるNeedles and Pensという小さなお店を訪ねました。Needles and Pensは、手作りの「ジン(Zine)」や服、アクセサリーを販売したり、展覧会を開催しているアートスペースです。

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ジンはミニコミや同人誌と同じ自費出版の小さなメディア。米国西海岸が発祥の地といわれていて、カウンターカルチャーやDIY精神にもルーツをもとめることができるかもしれません。デジタル時代に、しかもコンピュータ・テクノロジーの集積地である西海岸で、ジンというアナログ出版の文化が存続していることは興味深いですね。

店内には、たくさんのジンの作り手(Zinesters)が持ち込んだジンが並んでいました。ジンの内容は、詩や小説、批評、イラスト集など何でもあり。形態もコピーした紙をホチキス綴めしたものや、手作りの袋に入れたもの、しっかり製本したものまで多種多様です。どれも少部数限定出版ですから、ひとつひとつ手描きでナンバリングされた冊子も少なくありません。

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おだやかな店主におすすめのジンを訊ねたところ、彼女は棚のすみからすみまで多くのジンを紹介してくれました。これらのジンは見た目ほど安くなかったので、とてもすべてを買えそうにありません。そこで、凝った装丁のものや日本語が載っていたジンをいくつかチョイスし、Squareレジで決済しました。

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Needles and Pensは、2003年に生まれて今年で10年になるそうです。
このとき購入した『The First 10 Years of Needles & Pens』から序文を紹介します。

Needles & Pensの物語は、2002年サンフランシスコのドットコム不況の廃墟の中からはじまりました。沈んだ経済が賃貸市場に一瞬のチャンスをもたらし、私たちはすぐに場所を見つけることができました。その年の10月に、Breezy Culbertsonと私は、14番街485番地の鍵を手に入れました。ヘンなアーティストたちが夢見る、家主からスペースを借りることをやったのです。

大家さんは、私たちがこのスペースで何をやろうとしているかよりも家賃の支払いについて気にしながら、私たちに裏に住みながら店先ではやりたいことを何でもやっていいと全て許可してくれました。私たちは後に、この地が多くのボヘミアンやアーティストたちの豊かな歴史をもっていることを知りました。 1980年代、パンクロッカーがここに住み、1990年代、オノ・ヨーコとマーク・ゴンザレスの作品を展示するKiki Galleryがここにあり、そして私たちが借りる直前、この店先はレズビアンが所有し運営していたタトゥーショップだったのです。私たちがあずかり知らぬうちに、宇宙はこのオルタナティブな遺産を次に継承するものとしてNeedles & Pensを選びとり、私たちはそれを受け継いだのです。

Breezyと私は、私たちの関心事をすべて盛りこんだ店を開こうとおもいました。それは、ジン、手作りの服、アートギャラリーです。当時のサンフランシスコにはそうした場所がまったくなかったので、型破りなアイデアでした。 8ヵ月後の2003年6月、Needles and Pensは、アーティスティックな場所がほとんどない街の中にその扉を開きました。ミッション地区で草の根のアートシーンを提供する場所は、Adobe Books、Pond Gallery、Misson Records、Oh So Little Cafeしかなかったのです。私たちはほどなく、高すぎる家賃のためいなくなったり、より経済的に住みよい街に移転を余儀なくされたりしたクリエイティブな人たちが、自分の作品を紹介する場所に飢えていることに気がつきました。私たちはこの状況に応える術を思いつきませんでしたが、あっという間に14番街の静かな店頭が、ジンや手作り服を持ちこむ人たちが顔を出すクリエイティブなエネルギーに満ちたにぎやかな場所へと変化しました。この場所は、アートショー、朗読やパフォーマンスのために立ち寄るツーリングバンドやジン作家たちであふれました。人びとはいつでもすすんで作業し、アートショーを企画し、みなが参加しようとしました。このスペースに興奮があふれていたのは明らかでした。健康で活気に満ちたシーンを生みだす要素をもっていたのです。

10年後、現在16番街に位置するN&Pは、何百人もの新進アーティストと著名アーティストの作品を展示し、85回の展覧会を企画し、6冊の本を出版し、数えきれないほどの朗読、パフォーマンス、音楽イベントを開催しました。この大切な記念日にむけて、私たちはしばしクリエイティビティの時代を振り返ります。アーティスト、ミュージシャン、キュレーターによるエピソードや写真を通して、この本はアートスペースとそれを育てサポートするために周りに集まった人たちのグループを記録しています。この時代は、こうしたあたたかいクリエイティブなエネルギーとNeedles and Pensが運営するコミュニティからの関与とともにあり、これからも続くでしょう。

Needles and Pensのすばらしい最初の10年をつくってくれてありがとう。

Andrew Martin Scott & Breezy Culbertson
Needles & Pens 創立者
2013年5月

WWDC 2013まで残り1ヶ月。「はじめてのWWDCガイド」2013年版日本語訳をどうぞ。

あと1ヶ月で、WWDC 2013ですね。

今年は2分でチケットが売り切れたとか……でもラッキーにもチケットを手に入れた人のなかには、WWDC初参加者の方もたくさんいらっしゃるとおもいます。

そこで、iPhoneプログラマーJeff LamarcheさんのブログiPhone & Mac Developmentの 「はじめてのWWDCガイド」の日本語訳をつくりました。

へたな翻訳ですので、間違いがあればご指摘ください!

わたしは、5年前に行ったことがありますが、毎年様子が変わっていくみたいですね。

ちなみに日本語のWWDCガイドには、以下のようなものがあります。

WWDCのススメ(2010年)

WWDC参加の心構え(2010年)

WWDC初心者ガイド 2010年版 (2010年) なんと2010年版の日本語訳がありました。こっちのほうがシンプルでよいかも。

WWDC 参加方法 – 初めての海外旅行で行ってきたよ!(2011年)

WWDC参加者のためのSan Franciscoガイド: 事前準備編(2012年)

それでは、ちょっと長いですけど、どうぞ!

続きを読む WWDC 2013まで残り1ヶ月。「はじめてのWWDCガイド」2013年版日本語訳をどうぞ。

2013年4月 札幌に引っ越しました

I have moved to Sapporo, the northern city in Japan.
Thank you for people in Fukuyama where I lived for three years.
I began to work at School of Design, Sapporo City University.

今年はこのブログで新年のご挨拶もせずじまいでしたので、実に久しぶりの更新です。
突然のお知らせですみませんが、2013年4月、札幌に引っ越しました。
(エイプリルフールではありません)

広島県福山市には3年間住みました。短い間でしたが、職場の福山大学の学生、教職員のみなさんをはじめ、福山、尾道、呉、岡山、広島などでじつに多くの方々に大変お世話になりました。心より感謝いたします。また、2012年にスタートした「福山の未来づくりワークショップ」のメンバーのみなさんとは、イベント「フクノワ」を実施し、これからのまちづくりが楽しみになったところで離れることになり残念です。

あたらしい場所では、札幌市立大学デザイン学部メディアデザインコースの教員として勤務します。はじめての北海道での生活。あたらしい環境になれるまでしばらくかかりそうですが、引き続き教育や研究活動をがんばりたいとおもいます。今後ともみなさんのご指導をよろしくお願いいたします。

この冬の札幌は例年にない大雪で、外にはまだ多くの雪が残っています。桜の開花はまだ先ですが、これからやってくる春を楽しみに待ちたいとおもいます。

footprint

GIFの質感?

先日、九州大学で開催された映像学会で、水野勝仁さん(@mmmmm_mmmmm)による「GIFの質感」という奇妙なタイトルの研究発表がありました。GIF(ジフ)は、パソコン通信やインターネットで使用されている画像形式の名称です。発表資料がこちらにあります。


「GIFは硬くて、JPEGはぬめっとしている」という意見があるそうです。わたしも、その意見にはおおむね同感です。JPEGにはざらっとしたところもありますが。

さて、GIFやJPEGの質感に関しては多くの人が言及していて、GIFやJPEGを主題にした展覧会やWebサイトも存在するそうです。GIFの質感にこだわる人には、デザイナーなどの「作り手」が多いようにおもいます。すくなくとも初期のWebデザイナーは、画像ファイルの容量を少しでも削るため減色などで日々GIFと格闘していて、その「質感」を熟知していたはずです。

このように、あるメディアの形式・技術に特有の質感に思いをはせるのは、GIFだけに限ったことではありません。ちょっとあげてみるだけでも、いろいろあります。音楽には、「真空管の質感」、「LPレコードの質感」、「MP3の質感」など。写真には「銀塩写真の質感」、「ポラロイドの質感」など。映像には、「8ミリの質感」、「DVの質感」など。そういえば、MPEG動画特有の圧縮ノイズに着目した動画作品をみたことがあります。

ここでいう「質感」とは、技術や圧縮アルゴリズムの制約によって不可避に発生するノイズや不自然な効果などを指しています。メディアが伝達する内容を重視する立場からみれば、「質感」は内容の品質低下を招くものであり、本来は歓迎されないもののはずです。ところが、黒子であり「透明」な存在である技術にあえて着目して愛好する現象も往々にして生まれています。

なぜこのような倒錯が起きるのでしょうか。その理由はいくつかありそうですが、ひとつは、その技術が主流だった時代への郷愁です。この「質感」は、「往時を思い出させてくれる懐かしいレトロな質感」というわけです。それから、もうひとつには、技術と人びととの適度な距離感にあるとおもいます。ある技術がわかりやすく、身体的に触れたりできるものだと、人びとはその技術特有の「質感」を語りたくなるのではないでしょうか。逆にわたしたちが直観的に理解できない技術では、「質感」の話題が盛り上がらない気がします。

GIFは、画像フォーマットのなかでも扱いやすく理解しやすいフォーマットです。GIFには一枚に使える色の数に制限がありますが、目で見て確認できる数なのでかえって把握しやすいともいえます。GIFのアニメ機能には、複雑な概念は不要で、パラパラマンガと同様につくることができます。高価なプロ用のソフトウェアを使わなくてもGIFファイルは作れます。なぜならGIFを扱うフリーソフトウェアはたくさんあるからです(特許問題で一時期下火になったことがありましたが)。GIF関連ソフトウェアの多さは、開発者にとってGIFが「ハックしやすいフォーマット」だったことをあらわしています。こうしたことからGIFは、誰にでもちょっとした工作のような手軽さと面白さを提供しています。このGIFの身近さが、その「質感」に関する言説を数多く生みだした要因のひとつでしょう。

「質感」の話題は、フォーマット(形式)とコンテント(内容)を分離したものととらえず、双方が影響を与えあっていることを再確認させてくれます。デジタルの世界では、さまざまなオープンフォーマットが生まれていますが、GIFのように市民権を得た(?)「質感」を感じさせるものはどれほどあるでしょうか。ここで書いたことはただの雑感で、冒頭に掲げた研究発表の意図とはかけはなれていますが、いろいろな発想が浮かんでくる楽しい発表でした。

■参考図書
メディアの「窓」(透明性)と「鏡」(反映性)を考える。

メディアは透明になるべきか
ジェイ・デイヴィッド ボルター ダイアン・グロマラ
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