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2013年4月 札幌に引っ越しました

I have moved to Sapporo, the northern city in Japan.
Thank you for people in Fukuyama where I lived for three years.
I began to work at School of Design, Sapporo City University.

今年はこのブログで新年のご挨拶もせずじまいでしたので、実に久しぶりの更新です。
突然のお知らせですみませんが、2013年4月、札幌に引っ越しました。
(エイプリルフールではありません)

広島県福山市には3年間住みました。短い間でしたが、職場の福山大学の学生、教職員のみなさんをはじめ、福山、尾道、呉、岡山、広島などでじつに多くの方々に大変お世話になりました。心より感謝いたします。また、2012年にスタートした「福山の未来づくりワークショップ」のメンバーのみなさんとは、イベント「フクノワ」を実施し、これからのまちづくりが楽しみになったところで離れることになり残念です。

あたらしい場所では、札幌市立大学デザイン学部メディアデザインコースの教員として勤務します。はじめての北海道での生活。あたらしい環境になれるまでしばらくかかりそうですが、引き続き教育や研究活動をがんばりたいとおもいます。今後ともみなさんのご指導をよろしくお願いいたします。

この冬の札幌は例年にない大雪で、外にはまだ多くの雪が残っています。桜の開花はまだ先ですが、これからやってくる春を楽しみに待ちたいとおもいます。

footprint

GIFの質感?

先日、九州大学で開催された映像学会で、水野勝仁さん(@mmmmm_mmmmm)による「GIFの質感」という奇妙なタイトルの研究発表がありました。GIF(ジフ)は、パソコン通信やインターネットで使用されている画像形式の名称です。発表資料がこちらにあります。


「GIFは硬くて、JPEGはぬめっとしている」という意見があるそうです。わたしも、その意見にはおおむね同感です。JPEGにはざらっとしたところもありますが。

さて、GIFやJPEGの質感に関しては多くの人が言及していて、GIFやJPEGを主題にした展覧会やWebサイトも存在するそうです。GIFの質感にこだわる人には、デザイナーなどの「作り手」が多いようにおもいます。すくなくとも初期のWebデザイナーは、画像ファイルの容量を少しでも削るため減色などで日々GIFと格闘していて、その「質感」を熟知していたはずです。

このように、あるメディアの形式・技術に特有の質感に思いをはせるのは、GIFだけに限ったことではありません。ちょっとあげてみるだけでも、いろいろあります。音楽には、「真空管の質感」、「LPレコードの質感」、「MP3の質感」など。写真には「銀塩写真の質感」、「ポラロイドの質感」など。映像には、「8ミリの質感」、「DVの質感」など。そういえば、MPEG動画特有の圧縮ノイズに着目した動画作品をみたことがあります。

ここでいう「質感」とは、技術や圧縮アルゴリズムの制約によって不可避に発生するノイズや不自然な効果などを指しています。メディアが伝達する内容を重視する立場からみれば、「質感」は内容の品質低下を招くものであり、本来は歓迎されないもののはずです。ところが、黒子であり「透明」な存在である技術にあえて着目して愛好する現象も往々にして生まれています。

なぜこのような倒錯が起きるのでしょうか。その理由はいくつかありそうですが、ひとつは、その技術が主流だった時代への郷愁です。この「質感」は、「往時を思い出させてくれる懐かしいレトロな質感」というわけです。それから、もうひとつには、技術と人びととの適度な距離感にあるとおもいます。ある技術がわかりやすく、身体的に触れたりできるものだと、人びとはその技術特有の「質感」を語りたくなるのではないでしょうか。逆にわたしたちが直観的に理解できない技術では、「質感」の話題が盛り上がらない気がします。

GIFは、画像フォーマットのなかでも扱いやすく理解しやすいフォーマットです。GIFには一枚に使える色の数に制限がありますが、目で見て確認できる数なのでかえって把握しやすいともいえます。GIFのアニメ機能には、複雑な概念は不要で、パラパラマンガと同様につくることができます。高価なプロ用のソフトウェアを使わなくてもGIFファイルは作れます。なぜならGIFを扱うフリーソフトウェアはたくさんあるからです(特許問題で一時期下火になったことがありましたが)。GIF関連ソフトウェアの多さは、開発者にとってGIFが「ハックしやすいフォーマット」だったことをあらわしています。こうしたことからGIFは、誰にでもちょっとした工作のような手軽さと面白さを提供しています。このGIFの身近さが、その「質感」に関する言説を数多く生みだした要因のひとつでしょう。

「質感」の話題は、フォーマット(形式)とコンテント(内容)を分離したものととらえず、双方が影響を与えあっていることを再確認させてくれます。デジタルの世界では、さまざまなオープンフォーマットが生まれていますが、GIFのように市民権を得た(?)「質感」を感じさせるものはどれほどあるでしょうか。ここで書いたことはただの雑感で、冒頭に掲げた研究発表の意図とはかけはなれていますが、いろいろな発想が浮かんでくる楽しい発表でした。

■参考図書
メディアの「窓」(透明性)と「鏡」(反映性)を考える。

メディアは透明になるべきか
ジェイ・デイヴィッド ボルター ダイアン・グロマラ
NTT出版
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「鞆の津ミュージアム」で考えたこと

2012年5月26日に、福山市の鞆の浦に「鞆の津ミュージアム」が開館しました。ふるい蔵を改装した素敵な建物で、入口で靴をぬいで展示室へ入る異色の美術館です。

鞆の津ミュージアムは、「アウトサイダー・アート」の美術館として開館しました。プロの芸術家ではない人びとが作るアートを、アウトサイダー・アートやアール・ブリュット、生の芸術と呼びます。彼らは、芸術界の評価や金銭的な報奨を目的としているのではなく、自らの表現欲求にしたがって「作品」を作っています。こうした作品には、とてつもない集中力が感じられたり、人間業とはおもえない細かい技法に目をうばわれるものが数多くあります。これまでは見捨てられていたこうした作品のなかから佳作を発掘し、展示や販売されることも増えています。ただ、鞆の津ミュージアムの企画は、単なるアウトサイダー・アートの展示や啓蒙ではなく、アウトサイダーをとても広く定義しているようです。また、とかく高尚にみられがちなミュージアムという制度をゆさぶる意図もこめられているように感じます。ここでは展示の具体的な紹介は省略しますので、ぜひ展示をご覧になってください。

5月27日、出展作家のひとりである都築響一さんのトークを聴きました。都築さんは、アウトサイダー・アートの業界からも見放されている、さらに外側にあって普段もっとも低く評価されている表現や人びとを次々に紹介していきました。たとえば、展覧会でも展示されていた「おかんアート」。全国のお母さん、おばあさんたちが、家でコツコツつくり、お茶の間を飾っているアマチュア民芸品のことです。キューピー人形の手作り着せ替え服や、カラー軍手、チラシの紙などでつくられたかわいい小物たち。ちなみに、これらの作り方のノウハウは人から人へ広まって、地方色はなく全国的に同じものが見られるそうです。また、チェコのミロスラフ・ティッシーは、なんとカメラを自作し、女性の写真を撮って世界的評価を得ました。撮りたいという強い気持ちさえあれば、紙筒と老眼鏡でもカメラは作れる。だれの評価もかえりみず、ひらすら作りつづける素人表現の力強さを前にすると、世間の評価を気にして一点主義に傾くプロ意識がなんと小さく見えることでしょうか。都築さんの「最新の機材を語ってる奴らが一番のバカ」という指摘のまっとうさに、おもわず唸ってしまいました。

ところで、この前日の5月26日、尾道のJOHNバーガー&カフェで開かれた「Let’s Film Flestival」というチャリティー上映会におじゃましました。この上映会にエントリーする作品には、ルールがありました。作中に入れるべき「小道具」と「場所」と「台詞」の3つの要素があらかじめ決められているのです。どこでその要素が出てくるのかは、作品を観るまでわかりません。まるで落語の三題噺をきくようなたのしさがありました。上映された作品には、既存の音楽や映画をミックスしたり、映像編集ソフトのエフェクト機能を多用したりしていて、「映像作品」の一般的な規準に照らせばダメなものもありました。でも、みんな実に楽しそうに作っているんです。観客にも作り手の楽しさが伝わってきて、笑いのたえない上映会でした。これは、商業的な映画祭も芸術的な上映会も目指さない、自分たちによる自分たちのための映像制作と上映会です。こういった作品やイベントは、たんなる「内輪受け」だとされて、プロの作家や批評家の評価はもらえそうにありません。映画館で上映されるレベルのフィルムは、もちろん万人に受けます。でも、自分たちの楽しさのためにつくる「アウトサイダー・フィルム」があってもよいんですよね。

さて、鞆の津ミュージアムができた鞆の浦は、不思議な場所です。瀬戸内のふるい港町の街並みが残った観光地ですが、ながい年月にわたって架橋問題で揺れている町でもあります。鞆行きのバスの車窓からみた道中には、「鯛網」(伝統漁業の観光イベント)と、「埋立て架橋推進」の幟(のぼり)が、それぞれの色を打ち消しあうように隣りあっていました。この町は、観光客を呼びたいのか、観光地であることを捨てたいのか、どちらなのかはっきりしません。あるとき、観光で町歩きしていると、住民からちょっと冷たい視線を感じたことがあります。どうもここでは、外部の人間を歓迎せず、日常生活の邪魔者として扱う人もいるようです。

これは決して悪口ではありません(鞆の観光でがんばっておられる方にはごめんなさい)。むしろ、次のような好意的な解釈もできます。鞆の浦は、商業的なプロデュースに長けた今どきの着飾った観光地とはちがって、洗練されすぎていない素朴な町の風情が残っているのです。観光地然としている有名な地の住民は、観光客へのフォローをつねに心がけてるある種の「プロ」です。しかし完全に観光地であることを受け入れていない鞆の人びとは、訪れる観光客にやすやすと迎合することなく、ふだんの穏やかな生活を優先しているのです。こう考えると、鞆の人たちは、「プロ観光地住民」の対極に位置する「アウトサイダー」であるといえます。

つまり、鞆の浦の人びとは、観光地で「お客様」として接遇されるとおもっている「消費者」の期待に同調することなく、はねつけているのです。こうした人びとの気質こそが、鞆の浦の観光客にちょっとした違和感をあたえているのではないでしょうか。彼らの「アウトサイダー」っぷりから、当初わたしは、鞆の浦をネガティブにとらえていました。ところが、さいきんは見方が変わってきています。鞆の浦は、ただの観光地を目指してほしくない。日本でも貴重な「アウトサイダー」であってほしいと願っています。観光地であることを過剰に意識しない「アウトサイダー」の土地に、アートであることを意識せずに表現されるアウトサイダー・アートの美術館ができたことは不思議な縁としかおもえません。これから起こる地域の人びととミュージアムの化学反応がたのしみです。

そうそう開館にあわせて、福山大学の学生たちが、このミュージアムのCMをつくりました。CMを見てもなんのミュージアムかさっぱりわからない(笑)衝撃のCMなので、ぜひ実際のミュージアムへ足を運んでみてください。

ひろしまメディア文化研究会

2012年3月17日、「ひろしまメディア文化研究会」に登壇しました。

ひろしまメディア文化研究会

広島アートプロジェクト」の今井みはるさん(広島市立大学芸術学部)と地域とアート、メディア表現について、それぞれの活動を報告し、参加者の方と議論しました。

「アートプロジェクト」とは、2000年代以降とくに盛んになった、地域の施設やアートスペース、公共空間で展開される芸術活動のことです。こうした各地の活動の規模はさまざまで、内容も一様ではありません。アーティストや芸術系大学、NPO、地域団体などが主催し、目的も市民レベルの芸術振興や地域振興などとかなりの幅があります。興味深いことは、従来の文化行政や美術観を覆すようなアートプロジェクトによって、専門家としてのアーティストの社会的役割や、持続的な文化活動の運営手法など、新たな課題が浮かびあがっていることです。

わたしは広島に来て2年経ちましたが、「広島アートプロジェクト」といった県内の活動について、知らないことばかりで大変勉強になりました。わたし自身の情報感度を反省しつつも、各地で実践されている文化的な活動が、残念ながら地域の人びとにうまく伝わっていない面もありそうです。

この日の研究会には、大阪や鹿児島からも参加者が集まりました。また、広島県内の6大学の教員が集まるという貴重な機会にもなりました。研究会の様子は、3月18日付の朝日新聞広島面に記事が掲載されました。研究会を企画した広島経済大学の土屋祐子さん、お集まりいただいたみなさんありがとうございました。

ひろしまメディア文化研究会
第6回公開研究会「地域でアートを開く、メディア表現を育む」

■登壇者
杉本達應さん(福山大学人間文化学部メディア情報文化学科)
今井みはるさん(広島市立大学芸術学部現代表現領域)
司会:土屋祐子(広島経済大学)、コメント:匹田篤(広島大学)

■日 時:2012年3月17日(土)14時00分~16時00分
■会 場:広島経済大学立町キャンパス
広島市中区立町2-25 IG石田学園ビル
※広島電鉄「立町」電停から徒歩1分
■主催:ひろしまメディア文化研究会
■参加費:500円(お茶菓子代・資料代)
■事前登録:不要
■問い合わせ:[email protected]

ひろしまメディア文化研究会のお知らせ

2012年3月17日、広島市で開催されるひろしまメディア文化研究会で、これまでの実践活動の事例や地域との関わりについて発表します。この日は、広島アートプロジェクトの今井さんのお話をうかがうのを楽しみにしています。ご関心のある方、ぜひお越しください。

以下、ご案内文です。

3/17 第6回公開研究会「地域でアートを開く、メディア表現を育む」を開催します

今年度最後のひろしまメディア文化研究会のご案内です。

3月17日(土)14時~16日、広島経済大学立町キャンパスで「地域とアート、メディア表現」をテーマにした研究会を行います。

今回は「ムービーカード」や「Chart It!」を開発したメディアアーティストで福山大学人間文化学部専任講師の杉本達應さん、2007年より毎年広島アートプロジェクトを手がける広島市立大学芸術学部の今井みはるさんにご登壇いただきます。

お2人にご活動の報告をいただきながら、アートやメディア表現をより多くの人に開こうとする試みを地域で展開していく上での課題や可能性を探ります。また大学生が地域に関わりながらアート・メディア表現を学んでいく意義についても議論したいと思います。

みなさんのご参加を心よりお待ちしております。

「地域でアートを開く、メディア表現を育む」
■登壇者
杉本達應さん(福山大学人間文化学部メディア情報文化学科)
今井みはるさん(広島市立大学芸術学部現代表現領域)
司会:土屋祐子(広島経済大学)、コメント:匹田篤(広島大学)

■日 時:2012年3月17日(土)14時00分~16時00分
■会 場:広島経済大学立町キャンパス
広島市中区立町2-25 IG石田学園ビル
※広島電鉄「立町」電停から徒歩1分
■主催:ひろしまメディア文化研究会
■参加費:500円(お茶菓子代・資料代)
■事前登録:不要
■問い合わせ:[email protected]