実用書は実用に供さない

「きみたち、書店でビジネス書を見ないの?」。社会人大学院生のとき、授業中に教員が放った一言だ。ビジネス書を見ると、世の中の社会のトレンドやニーズが手に取るようにわかるらしい。その人は企業組織が研究対象だから、いわばメシの種であり、そう言うのは当然といえば当然だ。

だけどビジネス書の多くは、だれかの不安をダシにした意図が透けてみえ、中身も薄く読むに堪えないものが多い。コンサルタントが書いた本はとくにダメだ(いま読んでいてげんなりしている)。どのページを開いても、営業トークをきかされている気分になる。書籍代を払うんじゃなくて、もらいたいくらい。ビジネス書は棚を見るくらいがちょうどいいんじゃないだろうか。トレンドはたしかにつかめる。

なにかのノウハウ(たとえばライフハックなるもの)を伝える実用書は、筆者特有の経験やノウハウは伝えてくれるが、それが万人に通用する保証はない。時代や環境、個人の性質などが変われば、同じノウハウで課題解決できるとはかぎらないからだ。あくまで一例としてながめつつ、最終的には自分で自分なりのノウハウをあみださなければ役にたたない。そういう自分なりの探索の参考書として実用書を位置づけておかないと、期待はずれの気持ちがのこる。

薄い実用書を何冊も買ってお金と読書時間を浪費するくらいなら、古典をなんども読むほうがコストパフォーマンスが高いはず(だけどなかなかな古典と格闘できていない)。

はやく本棚サービスをつくらねばだね。

読書について (光文社古典新訳文庫)

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自己紹介のスモールワールド

新入生100人以上の自己紹介を一気にきく。今年はいつになく均等で平凡で、きいていて悲しくなってきた。芸術系の学部とはとてもおもえない。お決まりのフレーズは、「なかよくしてください」「はなしかけてください」。

「すきなアーティストは……」といってでてくるのは、アイドルや歌手、バンドばかり。美術家の名前は現役教員をのぞいて、ひとりも出なかった。登場する人名などを書きとろうとしたが固有名詞をしゃべるのが早くほとんどききとれない。YouTuberやゲーム実況者がでてくるのが、時代といえば時代か。流行に左右されないクラシックなことがらもまったく登場しなかった。

彼女らの嗜好は自発的に獲得したものではなく、これまでの環境で決定づけられている。インターネットで世界中のクリエイティブを見ることができる時代だというのに、主体的に探索することはなく、商業的な情報の洪水に完全に飲み込まれている。その観測範囲のなんと狭いこと! あなたのなかのクリエイティブとはそれほどの広さしかないのか。だれだってオールマイティになんでも知る人にはなれないが、すくなくとも井の中にいることを自覚してほしい。

大学にはいってからは、おそらくいろんな作品、作家を目にすることになり、世界がひろがることだろう。といっても各人の世界の扉を開けてあげるのは、教員だけではできない。学生自身が好奇心をもって、「なんでも見てやろう」という態度をもたなければかわらない。趣味が合うもの同士で内輪で盛り上がりつづけるだけなら、世界はひろがらない。

とはいえ、自分が18歳の時を振りかえれば同じようなものだった。これからクリエイティブの扉を開いて自分の道を切り開いていくのなら、いつだって遅くはない。これから目を開いていこうね。

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無印良品銀座店

某日、無印良品銀座店へ。オープンしたばかりの旗艦店をのぞいてみた。入店までの長い行列をみていったんあきらめたが、しばらくしたら列が短くなっていたのですべりこんだ。

どこもかしこも込んでいたので、各フロアだけ回って、何も買わずに退散。残念ながら、総じて有楽町店のほうがよかったな。銀座店は狭くて見通しがよくなかった。

無印商品の愛用者ではあるが、どうしてもここじゃなきゃダメなものはない。定番品を揃えているアピールをするわりには、商品の廃盤や仕様変更が多いところにブランドアイデンティティのほころびを感じる。なので、個別の商品への関心はだいぶうすれてしまった。それよりも、MUJI HOTELや無印良品の家、団地のリノベーションなどの空間設計系が気になる。

MUJI HOTEL、毎日おなじ料金というコンセプトだったら面白いとおもっていたら、本当にそうらしい。ホテルのえぐい変動レートにいらつくことが多いので、フラットレートのホテルの存在は頭の片隅にいれておきたい。

わが家には無印良品の家具がいくつもあるが、もう買わないことにした。無垢材とうたっていても、ウレタン塗装では無垢とはいえないからだ。北の住まい設計社に伺ったときに、無垢材の良さを伝えてもらったおかげで、家具を見る目が変わった。

といっても無垢材の家具は高いので、わが家にはまだソファ一脚しかない。ゆっくりと増やしていきたい。

MUJI無印良品

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クリエイティブだった

能町みね子がラジオでいっていた。4、5歳くらいのとき、漫画を描きまくっていた。当時の自分は、クリエイティブな人間だった。あのときの創作意欲とクリエイティビティを、いま分けてほしいくらいだと。

たしかに、こどもの創造力には目をみはるものがある。子供のころは、わたしも落書き帳に漫画を「連載」していた。数冊分は描いていたとおもう。一話が3ページか5ページ程度の短いストーリー漫画で、一話ごとに場所が切り替わる。どの場所も、おなじ時間軸で進んでいく。映像編集でいえばカットバックの連続だ。どうしてこんな構成をひねりだせたのか(才能あるぞ!)。ストーリーは大枠の構想はできていて、そのつどひねりだしていたような。

黒と黄色のマーカーの2色で描かれた漫画。絵は下手だし物語も稚拙だった。だれも読者はいない(家族がこっそり読んでいた可能性はある)。読めば赤面まちがいなしだが、読み返してみたい。けれど、もうない。子供の作品って、とっておくべきだな。

そういえば大学生のときも、素描室の連絡ノートに漫画を「連載」していた。こっちには同級生という読者がいた。漫画が大好きだったんだな。いまも好きだけれど。

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ブラック・インターンを容認してよいか

学生と面談。就活の話をきいたら、思い切りブラックなインターンだった。完全なる無償労働で採用の約束もない。

一般論だが、あるカリスマのもとで働くには、滅私奉公で下積みがもとめられることもあるだろう。芸人の付き人のように、昭和の時代にはよくある光景だった。しかし芸人の付き人と、いまのインターンとは、ぱっと見は似ているが、大きな違いがある。

昔の人は、雇った人間をさいごまで面倒をみていた。文字通り終身雇用していたという意味ではない。あるじが雇えなくなった場合、ほかの働き口をみつけたり紹介して、食いっぱぐれないようにしてあげていたはずだ。ふるい言葉でいえば、仁義を通していた。一方、いまの企業や経営者は、一介のインターン生にそんな情をかけることはしない。

伝統的な徒弟制は、不安定な弟子の身分をどこかで回収してあげていたのだ。それにひきかえ、現代の悪質なインターンは、若い人の労働量を搾取し使い捨てている。まったく割に合わない。

なにもこの時代に、そんなブラックな組織にはいって、わざわざ苦しい経験を積もうとしなくてもよいのではないかとおもわず口走った。もちろんインターン先にすっかり心酔していて、人生なげうってもかまわない覚悟があるのなら、止めることはできない。でもさ、そのキラキラしたカリスマに傾倒しているのは一時の熱病かもしれないよ。あとで振りかえったら、もっとよい選択肢があったかもしれないよ。

リスクよりも安定をというつまらない説教かもしれないが、やっぱりブラック・インターンは一線を超えていて許容できない。

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