そのデザインはテイストではないか

デザインということばは、誤解にあふれている。

よくある誤解は、デザインを装飾だと考えること。きれいな飾り付けをほどこすことがデザインだと信じている。この立場からは、色や形など余計な要素を足すのがデザイナーの仕事だといえる。

つぎにある誤解は、デザインをテイストだと考えること。テイストとは味わい、趣味、趣向のことだ。かっこいいセンスと言いかえることができるかもしれない。素敵なデザイン、かわいいデザイン、クールなデザインといった形容は、だいたいテイストのことをいっている。

デザインをテイストだと考えると、趣味の世界に入ってしまう。特定の時代の潮流や、あるデザイナーの作風が好き、というように。デザインをテイストで語ると、主観的な好き嫌いの影響を受け、語り手の狭い了見で評価をくだすことになる。

デザインとは、そんな小さな範囲の問題ではないのだ。本来、テイスト云々よりも基底にある、よりロジックな設計や思想を指す。

しかしデザインという語は、テイストと同義でつかうほうが世に受けるためか、この誤解はまだまだとけそうにない。

(466文字・10分)

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ドラマ「シリコンバレー」が面白い

Amazon Videoで何気なく見てしまったドラマ「シリコンバレー」が面白い。現時点でシリーズ2の途中まで見ている。

ITスタートアップと巨大企業の対立を描く。さえない主人公と、その仲間のキャラクターが濃い。とくに気に入っている人物が、ギルフォイル。自身の技術力に自信をもつ不遜なハッカーだ。こういう顔つきの人、ほんとによくいる!という感じ。IT業界のことを知っていれば、笑えるネタがたくさんちりばめられている。基本的にコメディで内容はとても下品。こどもには見せられない(R15)。

アメリカのドラマの面白さは、テンポのよさにある。CPSが異常に高い。CPSというのは、いま作った造語で、Cost per secondの略。1秒当たりの予算だ。短いシーンにも惜しげもなく予算をかけている。これが日本のドラマだと、たとえ脚本が面白くても、低いCPSにとどめるために、ぜいたくなシーンでも長く使うことで、間延びしてしまうのだ。

毎回のオチを振りかえると、多くはだれかにとって気まずい場面だ。面目がつぶれる、きまりの悪いシーン。人間のメンツやプライドを皮肉り、くすりと笑わせるネタから、プロットを組み立てているのかもしれない。

このドラマは、メディア技術史の教材ビデオとしても使える。主人公率いるパイドパイパー社の圧縮技術は非常にすぐれているものの、普及させるには幾重もの障壁が立ちはだかる。新技術の普及は、決して優れた技術が自然に選択された結果ではなく、社会的に構成されていく。「シリコンバレー」は、そのことを面白おかしく描いているからだ。

ただし下品すぎて、授業で見せることはできない。

(688文字・14分)

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Silicon Valley
https://www.imdb.com/title/tt2575988/

生活のリズムが第一党

こんにちは、生活のリズムが第一党の党首です。党是は、生活のリズムが第一。公約は、基本的人権としての睡眠時間と朝昼夕食時間を保証することでです。睡眠時間、食事の時刻など、毎日同じリズムで生活することで、すこやかな生活をおくることができます。夜更かし、寝過ごし、ありえません。二度寝、三度寝はしません。早弁、おそ弁、ご飯抜き、もってのほか。太陽とともに活動するのが自然の摂理です。ついでにコンビニの24時間営業はやめてしまいましょう。

いやいや。みなさんに朝6時に起きて、9時に仕事をはじめようなどといっているわけではありませんよ。我が党は、そんな全体主義的な思想はもっていません。生活のリズムはそれぞれの人によってちがうでしょう。ただ、憲法がうたう健康で文化的な最低限度の生活を送るには、何よりも毎日一定のリズムが必要であり、それをみなさんに保証してあげたいのです。生活のリズムの大切さに気がついていない人たちがあまりにも多いので、こうしてわたしは闘っているのです。リズムが不安定な人は、目があいていても寝ているようなものです。さあご一緒に目覚めましょう!

おっと。党首としたことが、たいへんな夜更かしをしてしまった。もう日付が変わっている。かくも人間は矛盾に満ちている。おやすみなさい。

(541文字/17分)

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つながらないブログ

(ある本を読み終えたけれど、筆者の口の悪さに閉口。書評はかけないな。Amazonの一つ星レビューに共感する)

つながりっぱなしの日常。SNSがうっとうしくてやめたいけれど、完全に絶つのは躊躇する。困ったことにやめられない。だいたいどこのSNSでもROM専である。ブログを書いて自分でシェアするようなことはしない。ここのブログはGoogleでもひっかからない、ネット上の孤島だ。さすがにGoogleのインデックス対象にはならないと、ほぼ不可視のブログになってしまうので対策しないといけないけれど。

「自由」なインターネットは、いつの間にか量産されるアフィリエイトブログに覆われてしまった。無用で有害なコンテンツの氾濫で、ネット検索が役に立たなくなっている。昔のインターネットのように、次々にリンクをたどっていって良質なコンテンツに出会うことができなくなってしまった。「ふつうの」ブログでさえ、SNSか検索でしかたどりつくことはなく、他のサイトにリンクでバトンを渡すようなことがない。ブログの勃興期は、RSSやトラックバックに豊かな未来を感じていたが、ほとんど使われなくなった。

この状況からどうやって抜けだせるのだろう。必要としている人が必要な情報にたどりつけるようなネットの仕組みをどうにか再構築できないだろうか。ネットのプラットフォームに依存して、間接的に広告費を支払うよりも、各自がちょっとずつ支払って自前のメディアを持つほうが、自律分散のインターネットに似つかわしい。

つながらないブログはふだんは目立たず炎上することもない。山中にぽつんと建っている一軒家のようなものだ。気が向いたら、ここにたどりつける道をたどってアクセスできればそれで十分だ。いまのところここは、実名でも気楽につぶやける場所である。

実用書は実用に供さない

「きみたち、書店でビジネス書を見ないの?」。社会人大学院生のとき、授業中に教員が放った一言だ。ビジネス書を見ると、世の中の社会のトレンドやニーズが手に取るようにわかるらしい。その人は企業組織が研究対象だから、いわばメシの種であり、そう言うのは当然といえば当然だ。

だけどビジネス書の多くは、だれかの不安をダシにした意図が透けてみえ、中身も薄く読むに堪えないものが多い。コンサルタントが書いた本はとくにダメだ(いま読んでいてげんなりしている)。どのページを開いても、営業トークをきかされている気分になる。書籍代を払うんじゃなくて、もらいたいくらい。ビジネス書は棚を見るくらいがちょうどいいんじゃないだろうか。トレンドはたしかにつかめる。

なにかのノウハウ(たとえばライフハックなるもの)を伝える実用書は、筆者特有の経験やノウハウは伝えてくれるが、それが万人に通用する保証はない。時代や環境、個人の性質などが変われば、同じノウハウで課題解決できるとはかぎらないからだ。あくまで一例としてながめつつ、最終的には自分で自分なりのノウハウをあみださなければ役にたたない。そういう自分なりの探索の参考書として実用書を位置づけておかないと、期待はずれの気持ちがのこる。

薄い実用書を何冊も買ってお金と読書時間を浪費するくらいなら、古典をなんども読むほうがコストパフォーマンスが高いはず(だけどなかなかな古典と格闘できていない)。

はやく本棚サービスをつくらねばだね。

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