自己紹介のスモールワールド

新入生100人以上の自己紹介を一気にきく。今年はいつになく均等で平凡で、きいていて悲しくなってきた。芸術系の学部とはとてもおもえない。お決まりのフレーズは、「なかよくしてください」「はなしかけてください」。

「すきなアーティストは……」といってでてくるのは、アイドルや歌手、バンドばかり。美術家の名前は現役教員をのぞいて、ひとりも出なかった。登場する人名などを書きとろうとしたが固有名詞をしゃべるのが早くほとんどききとれない。YouTuberやゲーム実況者がでてくるのが、時代といえば時代か。流行に左右されないクラシックなことがらもまったく登場しなかった。

彼女らの嗜好は自発的に獲得したものではなく、これまでの環境で決定づけられている。インターネットで世界中のクリエイティブを見ることができる時代だというのに、主体的に探索することはなく、商業的な情報の洪水に完全に飲み込まれている。その観測範囲のなんと狭いこと! あなたのなかのクリエイティブとはそれほどの広さしかないのか。だれだってオールマイティになんでも知る人にはなれないが、すくなくとも井の中にいることを自覚してほしい。

大学にはいってからは、おそらくいろんな作品、作家を目にすることになり、世界がひろがることだろう。といっても各人の世界の扉を開けてあげるのは、教員だけではできない。学生自身が好奇心をもって、「なんでも見てやろう」という態度をもたなければかわらない。趣味が合うもの同士で内輪で盛り上がりつづけるだけなら、世界はひろがらない。

とはいえ、自分が18歳の時を振りかえれば同じようなものだった。これからクリエイティブの扉を開いて自分の道を切り開いていくのなら、いつだって遅くはない。これから目を開いていこうね。

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無印良品銀座店

某日、無印良品銀座店へ。オープンしたばかりの旗艦店をのぞいてみた。入店までの長い行列をみていったんあきらめたが、しばらくしたら列が短くなっていたのですべりこんだ。

どこもかしこも込んでいたので、各フロアだけ回って、何も買わずに退散。残念ながら、総じて有楽町店のほうがよかったな。銀座店は狭くて見通しがよくなかった。

無印商品の愛用者ではあるが、どうしてもここじゃなきゃダメなものはない。定番品を揃えているアピールをするわりには、商品の廃盤や仕様変更が多いところにブランドアイデンティティのほころびを感じる。なので、個別の商品への関心はだいぶうすれてしまった。それよりも、MUJI HOTELや無印良品の家、団地のリノベーションなどの空間設計系が気になる。

MUJI HOTEL、毎日おなじ料金というコンセプトだったら面白いとおもっていたら、本当にそうらしい。ホテルのえぐい変動レートにいらつくことが多いので、フラットレートのホテルの存在は頭の片隅にいれておきたい。

わが家には無印良品の家具がいくつもあるが、もう買わないことにした。無垢材とうたっていても、ウレタン塗装では無垢とはいえないからだ。北の住まい設計社に伺ったときに、無垢材の良さを伝えてもらったおかげで、家具を見る目が変わった。

といっても無垢材の家具は高いので、わが家にはまだソファ一脚しかない。ゆっくりと増やしていきたい。

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クリエイティブだった

能町みね子がラジオでいっていた。4、5歳くらいのとき、漫画を描きまくっていた。当時の自分は、クリエイティブな人間だった。あのときの創作意欲とクリエイティビティを、いま分けてほしいくらいだと。

たしかに、こどもの創造力には目をみはるものがある。子供のころは、わたしも落書き帳に漫画を「連載」していた。数冊分は描いていたとおもう。一話が3ページか5ページ程度の短いストーリー漫画で、一話ごとに場所が切り替わる。どの場所も、おなじ時間軸で進んでいく。映像編集でいえばカットバックの連続だ。どうしてこんな構成をひねりだせたのか(才能あるぞ!)。ストーリーは大枠の構想はできていて、そのつどひねりだしていたような。

黒と黄色のマーカーの2色で描かれた漫画。絵は下手だし物語も稚拙だった。だれも読者はいない(家族がこっそり読んでいた可能性はある)。読めば赤面まちがいなしだが、読み返してみたい。けれど、もうない。子供の作品って、とっておくべきだな。

そういえば大学生のときも、素描室の連絡ノートに漫画を「連載」していた。こっちには同級生という読者がいた。漫画が大好きだったんだな。いまも好きだけれど。

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ブラック・インターンを容認してよいか

学生と面談。就活の話をきいたら、思い切りブラックなインターンだった。完全なる無償労働で採用の約束もない。

一般論だが、あるカリスマのもとで働くには、滅私奉公で下積みがもとめられることもあるだろう。芸人の付き人のように、昭和の時代にはよくある光景だった。しかし芸人の付き人と、いまのインターンとは、ぱっと見は似ているが、大きな違いがある。

昔の人は、雇った人間をさいごまで面倒をみていた。文字通り終身雇用していたという意味ではない。あるじが雇えなくなった場合、ほかの働き口をみつけたり紹介して、食いっぱぐれないようにしてあげていたはずだ。ふるい言葉でいえば、仁義を通していた。一方、いまの企業や経営者は、一介のインターン生にそんな情をかけることはしない。

伝統的な徒弟制は、不安定な弟子の身分をどこかで回収してあげていたのだ。それにひきかえ、現代の悪質なインターンは、若い人の労働量を搾取し使い捨てている。まったく割に合わない。

なにもこの時代に、そんなブラックな組織にはいって、わざわざ苦しい経験を積もうとしなくてもよいのではないかとおもわず口走った。もちろんインターン先にすっかり心酔していて、人生なげうってもかまわない覚悟があるのなら、止めることはできない。でもさ、そのキラキラしたカリスマに傾倒しているのは一時の熱病かもしれないよ。あとで振りかえったら、もっとよい選択肢があったかもしれないよ。

リスクよりも安定をというつまらない説教かもしれないが、やっぱりブラック・インターンは一線を超えていて許容できない。

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カフェ風選挙事務所

投票日の夜は、空港から車で帰宅していた。帰りの飛行機のなかのスクリーンでも、カーラジオでも、統一地方選の開票速報を伝えている。帰り道の通りに、選挙事務所が二つあって、明かりがまぶしく輝いていた。一つは女性候補者の事務所で、カフェのようなおしゃれな内装のように見えた。

NHKラジオは、出口調査によると何々党支持者の何割がこの候補に投票した、といったを何度も伝えている。それだけ聴いていても、争点があったのかどうなのかよくわからない。要は結果としての党派の趨勢が伝えたいのだろう。地方議会選挙の開票速報をそんなに時間をかけて報じるのなら、選挙期間中もちゃんと報じてほしかったよ。

地元の県議の最多得票の候補者は、帰り道に遭遇したカフェ風の選挙事務所の主だった。何者か検索したら、元アナウンサーだという。ほかの人も同じことが気になっていたのか、彼女の出馬のニュースが新聞社サイトのアクセスランキングに入っている。最低得票の候補者は、ご本人には残念だが予想していた通りだった。選挙は知名度と組織力でしか決まらないのかとおもうとやるせない。最下位から二番目(落選)の候補者は、海外大学のExtensionとCommunity collegeというちょっとふしぎな学歴を書いていた現職の候補者だった。

開票速報も新元号も1分1秒を争うものかな。時がくれば結果がわかることを速報することに大きな価値はない。そこに莫大なコストをかけつづけるのは生産的とはおもえないのだけど。

明日から前期開講だが疲れていて準備に手がつかない。なかなか寝つけないでいると、夜空を照らす光の瞬きとともに大きな雷が落ち、雨が降ってきた。

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