新入生100人以上の自己紹介を一気にきく。今年はいつになく均等で平凡で、きいていて悲しくなってきた。芸術系の学部とはとてもおもえない。お決まりのフレーズは、「なかよくしてください」「はなしかけてください」。
「すきなアーティストは……」といってでてくるのは、アイドルや歌手、バンドばかり。美術家の名前は現役教員をのぞいて、ひとりも出なかった。登場する人名などを書きとろうとしたが固有名詞をしゃべるのが早くほとんどききとれない。YouTuberやゲーム実況者がでてくるのが、時代といえば時代か。流行に左右されないクラシックなことがらもまったく登場しなかった。
彼女らの嗜好は自発的に獲得したものではなく、これまでの環境で決定づけられている。インターネットで世界中のクリエイティブを見ることができる時代だというのに、主体的に探索することはなく、商業的な情報の洪水に完全に飲み込まれている。その観測範囲のなんと狭いこと! あなたのなかのクリエイティブとはそれほどの広さしかないのか。だれだってオールマイティになんでも知る人にはなれないが、すくなくとも井の中にいることを自覚してほしい。
大学にはいってからは、おそらくいろんな作品、作家を目にすることになり、世界がひろがることだろう。といっても各人の世界の扉を開けてあげるのは、教員だけではできない。学生自身が好奇心をもって、「なんでも見てやろう」という態度をもたなければかわらない。趣味が合うもの同士で内輪で盛り上がりつづけるだけなら、世界はひろがらない。
とはいえ、自分が18歳の時を振りかえれば同じようなものだった。これからクリエイティブの扉を開いて自分の道を切り開いていくのなら、いつだって遅くはない。これから目を開いていこうね。
何でも見てやろう (講談社文庫)posted with amazlet at 19.04.12小田 実
講談社
売り上げランキング: 27,608
Amazon.co.jpで詳細を見る