金子郁容,1992,『ボランティア―もうひとつの情報社会』岩波書店.


前半は、自発的に動く人の事例をあげながら、ボランティアという見返りを期待しない行為から、思いがけず平等な関係性がうまれることを解説する。

とりあげる事例は、在宅ケアシステム、障害者の「自立生活」、v切符制度、PDSコミュニティなど幅広い。このうちいくつかの用語は、いまでは聞くことがなくなった。

後半は、やや学問的な議論に入る。ハンガリー生まれの経済学者カール・ポランニーによる経済活動の批判的検討。イヴァン・イリイチによる「ヴァナキュラー」、「ジェンダー」というキーワード。マルセル・モースの『贈与論』。駆け足で解説されるのでつかみづらいが、現在の経済システム以外のオルタナティブがあるのではという問題提起だと解釈した。

最後に「もうひとつの情報社会」というキーワードが提示される。情報という概念が従来の経済システムの価値観を見直すと主張している。しかしこの議論での「情報」は、希少性も所有権もない無透明なデジタルデータのことを指しているようで、しっくりこなかった。

本書は、発行された1990年代前半の時代背景を想像しながら読む必要がある。インターネット前夜、パソコン通信のユーザが増え、好調な日本経済を背景に大手企業がボランティアを推奨しはじめた。情報という概念に社会変革の希望を託すことができた時代だったのだ。

情緒的な書きぶりの当時の希望的観測が、いまどうなったのか。しずかに答えあわせするとちょっぴり苦い味がした。

(670字・30min)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください